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東京地方裁判所 平成5年(ワ)22446号 判決 1994年8月31日

(編集注・仮名)

原告 破産者原孝一破産管財人 網谷充弘

被告 東芝クレジット株式会社

右代表者代表取締役 鳥居秀行

右訴訟代理人弁護士 星徳行

同 堀輝影

主文

一  被告は、原告に対し、破産者原孝一名義の株式会社サンメンバーズカントリーゴルフクラブの会員資格証書を引渡せ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨並びに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  破産者原孝一は、平成四年七月二一日東京地方裁判所民事第二〇部で破産の宣告を受け、原告は破産管財人に選任された。

2  破産者原は、株式会社サンメンバーズカントリークラブ(以下「株式会社サンメンバーズ」という。)のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)を有していたところ、平成元年一〇月二八日ころ、被告と右同日付金銭消費貸借契約における三〇〇万円の債務の担保として、本件ゴルフ会員権につき譲渡担保契約をし、本件ゴルフ会員権の会員資格証書(C-〇九一三)(以下「本件会員証書」という。)を被告に引き渡した。

被告は、本件譲渡担保において対抗要件を具備しておらず、原告に対して本件会員証書の保有権限を主張できないものである。

3  よって、原告は被告に対して、本件会員証書の引渡を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の前段の事実は認め、後段の主張は争う。

被告は、本件譲渡担保契約の際、破産者原から本件会員証書を含む本件ゴルフ会員権の名義書換えに要する一式書類の交付を受けたものである。

三  被告の主張

1  本件は預託金型ゴルフ会員権であり、本件会員証書は有価証券と同視すべきである。従って、被告は、本件譲渡担保契約において、破産管財人である原告に対して、その占有をもって対抗できるというべきである。

また、原告が本件ゴルフ会員権を売却するに必要不可欠なものとして返還を要求する程、本件会員証書の占有が重要な権利帰属を決定する要素であるならば、被告は、動産の譲渡担保に準じて本件会員証書の占有を原告に対抗できると解すべきである。

2  被告は、本件において商法上の留置権を有するのであるから、前記貸付金の支払を受けるまで、本件会員証書の引渡を拒絶する。

3  仮に、被告が原告に本件譲渡担保権を対抗できないとしても、原告は被告の権利を否認すれば足り、本件会員証書の引渡請求権まで有するものではない。このことは、差押債権者が競合した場合において、仮に差押債権者が対抗要件を優先して具備したからといって、その者が債権証書の引渡請求権を有するものでないのと同様である。また、原告は、本件会員証書は指名債権の単なる証拠に過ぎないと考えているのであるから、その引渡を求める権利も意味もない。

四  被告の主張に対する答弁

被告の主張中、本件ゴルフ会員権が預託金型ゴルフ会員権であることは認め、その余は争う。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1の事実及び破産者原は本件ゴルフ会員権を有していたところ、被告と本件譲渡担保契約をし、被告が破産者原から本件会員証書の引渡を受けたことは、当事者間に争いがない。

二  甲第二号証によれば、本件ゴルフ会員権は、いわゆる預託金会員組織のゴルフ会員権であり(右事実は当事者間に争いがない。)、①株式会社サンメンバーズが経営管理するゴルフ場施設をクラブ規則に従い優先的に利用できる権利、②所定の条件のもとで預託した入会保証金を退会時に返還請求できる権利、③年間費納入等の義務、という債権債務関係からなる契約上の地位ないし債権的法律関係であると解せられる。

右のような性質の権利を有する本件ゴルフ会員権をある債務の担保のために譲渡担保に供した場合には、第三者(株式会社サンメンバーズ以外の第三者)に対抗するためには、株式会社サンメンバーズに対し確定日付のある通知もしくは右会社の譲渡の承諾を要すると解するのが相当である。してみると、本件では、被告は、右対抗要件を具備していないのであるから、本件破産財団に対して、本件譲渡担保権を主張できないといわなければならず、原告は、被告に対して本件会員証書の引渡を求めることができるものである。

1  被告は、本件会員証書は有価証券に準じて考えるべきであり、その引渡をもって対抗要件を具備したものと解すべきである旨主張する。乙第一号証によれば、本件会員証書には、「本証書裏面に記名捺印することにより、これを譲渡することができます。」との記載があり、その裏面に、裏書人と取得者の氏名捺印欄が設けられ、本件ゴルフ会員権は本件証書に裏書することにより転々譲渡することを予定しているようではあるが、本件会員権の譲渡には、会員の利益を保護する等のため、株式会社サンメンバーズの承認を得る必要があり、その旨が本件会員証書上に明記されており、前記裏書人等の氏名捺印欄に続いて株式会社サンメンバーズの承認印欄が設けられていること、本件ゴルフ会員権は前記のように義務をも包含した複合的な債権的法律関係であるところ、本件会員証書には、その法律関係の内容が明示されておらず、右証書上からは、本件会員権の内容が明らかでないこと、本件会員証書には、特定の者又はその指図人を権利者とする旨の指図文句の記載がないこと(乙第一号証)等に照らし、また、他に本件会員証書が有価証券であると認めるに足る証拠はない本件(被告は、本件会員証書は有価証券に準ずるものである旨主張するのみで具体的な立証はしていない。)においては、本件会員証書をもって本件ゴルフ会員権を表章する有価証券とみることはできない。

2  前記説示のように、本件会員権の法的性質は債権的法律関係とみるべきであるから、本件譲渡担保を動産の譲渡担保に準じて考えることは相当ではなく、被告主張は失当である。

3  甲第二、三号証によれば、破産者原は個人として被告から本件借入をしたものであり、被告の商法上の留置権の主張は失当である。

4  被告の主張3は若干捕捉し難いが、要するに、本件会員証書を所持することなく、本件会員権を行使できるのであれば、原告が本件会員証書の引渡を請求する法的な利益はなく、本件請求は理由がないとの趣旨に解せられるところ、被告は、原告に対する関係では、本件譲渡担保をもって対抗することができず、また、本件会員証書の所持を対抗できないことは前記説示のとおりであり、本件会員証書は有価証券ではなく証拠証券の性格を有するものであるが、本件会員証書を所持することにより簡明、確実に権利を行使することができるのであるから、原告が本件会員証書の引渡を求めることができると言うべきである。費用の負担につき民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 滿田忠彦)

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